私を削ぐ
 「全部、削いでみようと思ったの」
 帰り道、淡く焼ける空を見上げながらそう言われた。
「そぐって、一体何を」
 その言葉自体にうかがえる凶暴性と彼女自身に、私の中で全くもって共通点が見いだせなかった。ときたま思いついたことを、思いついたまま口に出す子だから、その発言だけでは意図をくみとれないことはしばしばあった。だから、不思議ではあったが、驚きはなかった。
「私を構成する物全て、って感じかな。全部削いだら何になるんだろうね」
 尋ねられたって私にはまず、自分を削ぐ、という概念が生まれていない。
「何でまた削ぐのよ。切り離すとか、はずすとか、他にも表現があるじゃない」
「んー、そうなんだけど、最初に思いついた言葉だったから。そう、でね、考えてみたの」
 彼女は前を向いたままで、私は目線を斜め下にしてその変に無表情な顔を見ながら、歩いていた。
「うんうん。まずは何を削いだの?」
 彼女の言葉選びにあわせる。
「まず、とかじゃないのよ。もう一気に、一心不乱に削いでいったの。あんたのことも、どこかで削がれたと思う」
「私は、あんたを構成する要素の中に自分が入ってたことの方が驚きだよ」
 ふふっ、とわずかに笑った。自分でも思い当たる節があったのだろうか。
「好きも嫌いも何もない私。喜びも悲しみも、優しさも汚さも、厳しさも」
「厳しさなんて、もとからないじゃない」
「少しはね、あるのよ。削ぐのは簡単だったわ」
 そろそろ分かれ道に来てしまう。
「時間がないから、早く答えを教えて。結局、何が残ったの」
 道路から、町並みから視線を上にやると、まだ明るい空に星がでていた。
「……なんにも。削ぎすぎたのかはわからないけど、何にも残らなかった。私なんて、初めからなかったのよ、なんて言えるくらいに」
 読み取りにくい表情なのは相変わらずのはずなのに、なぜかそれが彼女が言う「何もない」に見えて、少し恐ろしくなった。
「削ぎすぎて、自分を傷つけてんじゃないわよ」
 ほら、そんな言葉を使ったから。もっとあんたに似合う、柔らかい言葉を使えばよかったのに。
「……大丈夫よ。一回削いでみただけ。もうあんなことしないから」
 いつもの帰り道、さよならの曲がり角で手を振る。どうかあの子が削いだもの全部、明日には戻っていますように。