誕生悲話
 闇に侵された森の中、静まりかえったそこでフクロウの声だけが空に響く。そんな時間にこの森で、まだ活動している人間がいた。
「あと少し…もうすぐ……」
 前方には巨大なモニター、手元にはいくつものキーボード。モニターには複雑な数字と文字の羅列が途方もなく表示されている。そちらを見ながら動く手は、最早動きが見えない。

 やがてフクロウの声は止み、森の闇は太陽の光によって退けられていく。朝が来た。
「で、きた」
 パタ、という効果音でもつきそうなかんじで、彼女は前に倒れ込んだ。
 ――カチ
 倒れた先にはキーボードが。そして、その拍子に何かのキーが押されてしまった。モニターには「認識完了」という文字が。だが、彼女は睡眠を貪っているために、気がつかない。すると、あの巨大なモニターが真半分に別れ、中から何かが出てきた。
 ――ぺたぺたぺたぺた
 人だ。人が一糸纏わぬ姿で、彼女の方へ歩みを進める。表情は硬く、瞳には何も映していない。やがて人は彼女の元へ辿り着き、その側に立ちつくした。


 これが歴史的瞬間、人造人間の誕生だった。


 「博士、何か一言!」
「先生お願いします!」
 彼女の周りには、今、たくさんの記者がいる。
「利用目的は医療関連とされていますが、もっと詳しく!」
 シャッター音と様々な言葉たちの波で、きっと彼女の耳には何一つ正確に伝わってはいないだろう。
「試験試行は成功しました」
 刹那、静まったが、やはりまた騒ぎ出す群衆。「お静かに」彼女は言った。何が始まるのかと再度静まる。
「後日、実用のための研究発表がございます。その後に会見を開きますので、詳しいことはその時に」
 そして彼女はにこりと微笑み、いつの間にか側にあった車に乗り込んだ。まあ、車と行ってもタクシーなのだが。そこまで金持ちではないらしい。

 あれから四日後の夕方、宣言通りに会見が開かれた。数多の記者に対し、彼女は一人。
「質問は挙手で願います」
 そして彼女はまず、研究内容を発表した。
「私はここ数年の間医療に関して、もっとよい、もっと効率の良い治療方法はないかと研究を続けて参りました。そして、見つけたのです。これは皆さんもご存じの通り、人造人間ですね」
 まだ続く。
「そして、ある特殊な機械を通すことにより、人間の持つ悪い部分、それは臓器であったり、ガン細胞であったり……。それらを人造人間に転移することができるのです」
 群衆にざわめきが起こる。
「質問は挙手で」
 瞬時に手が挙がる。彼女が選んだのは二列目にいた若い女性だった。
「人体への影響は?」
「全くございません」
 間髪入れず、はっきり言い放った。その自信に満ちた笑みに、皆少し怯む。しかし、手は一つも下がらない。次に選ばれたのは最後列の中年男。
「人間との相違点をいくつか」
「肉体はあり、血も流れています」
 これは当たり前だ。でないと転移などできるはずがない。
「ただし、痛点は消去してあります。そしてあれらに心はありません。転移される側には必要のないものですから」
 彼女は無表情だ。一旦、記者達の手は下がり、スラスラと筆を走らせた後、再び多数の手が挙がる。
 こうしてその後も質問の嵐がつづき、一段落つくと、彼女は会見を強制終了させた。

 様々な病院で次々と人造人間が導入されていく。利用者も増加し続けているため、料金も低下していく。製造者である彼女はどんどん有名になっていき生活も裕福になっていった。その証拠に、彼女は今、一つの病院の中に研究棟を建設させたのだ。そしてある一定までくると、人造人間の製造、管理等をほとんど助手のゴマに任せるようになった。
「私はこれから少し研究室に籠もるから」
 また何かの研究を始めるようだ。ゴマ助手も対応には慣れているようで
「分かりました。その間のことはお任せ下さい」
 事務的に対応する。


 それから数日が経ったある夜


 「イヤー! やめて!」
 始まりはそれだった。幼い男の子の悲痛な叫び声。
「良い子になるから! もう悪いことしないから! 許して、お母さん!」
 ――ドンッ
 研究室の扉が乱暴に開かれた。
「ゴマ助手! 何が起こったの?」
 足早に彼の元へ向かいながらそう彼女は叫ぶ。
「少し新しいことをしただけです、博士」
 ガラス越しに転移室の様子を眺めながらゴマ助手は言った。企みが成功したような嫌な笑みを浮かべている。
「そちらの少年の記憶をS-256に転移したのです。成功ですよ」
 彼女は呆然としている。未だ発狂し続ける人造人間タイプSを見て、何かを思案している。S-256の隣にはまるで死人のように眠りこけ、ピクリとも動かない少年がいた。
「博士?」
 何も言わない彼女を不思議に思ったのか、声をかけてみた。そしてそれが合図だったように、彼女は転移室の扉を開けて、中へ入っていった。小さな彼の発狂は止み、今はぶつぶつと呪文のように
「お願い…許して……」
 と繰り返すばかりだ。言葉の節々に小さな嗚咽が混じる。見えない何かに怯えるように体を小さく折り曲げ、その小さな手で頭を抱え、恐怖に打ち震えている。大きな瞳には大きな涙が。どうやら記憶だけでなく『心』まで転移されているようだった。  でなければ、『恐怖』という感情が生まれないからだ。
「……」
 中に入りはしたものの、ただ突っ立っている彼女。

 譫言のように繰り返し『母親』に許しを請う幼き彼。その姿を、何をするでもなく彼女はただ眺めていた。その状態が十五分ほど続いた後、ゆっくりと少年に近づいていった。そして
「かわいそうな子……」
 そう呟いて彼をその両腕で包み込んだ。少年の体が一瞬で強張るのが彼女にも伝わってきた。
「もう大丈夫よ。安心して」
 自分が出来るだけの優しい声色で彼に声をかける。
 そしてその後も、輝くような黄金の髪を撫でながら、あやすようにただ「大丈夫」と呟き続けた。やがて嗚咽は止み、ただ彼が呼吸する音だけが転移室に響くようになった。その頃にはもう、ゴマ助手も転移した男の子もすでに消え失せていた。いや、もっと前にいなくなっていたのだろうが、博士たる彼女はその二つの存在を意識の外に追いやっていたのだ。だから知るよしもなかった。あの男の子が何の目的でどのような記憶をタイプSに与えたのかを……。

 ――かちゃ
 博士は仮眠室の扉を開けた。あの悲劇の夜から数日が経っていた。
「博士!」
 嬉々とした様子で彼女に近づいてくるのは、例の人造人間だ。
「あら。今日は随分と早起きさんね」
 とても穏やかな顔で少年に微笑みかける。
「何だかね、今日は嫌な予感がするの」
 だから早起きなのだと言いたいらしい。さっきとはうってかわって、少し沈んだように言った。
「大丈夫よ、リュウ。心配しなくても大丈夫。悪い事なんて起こりやしないわ」
 彼女はあれからも幾度となく「大丈夫」と言い続けた。
 そして「リュウ」というのは、博士が彼に付けた名前だ。あの男の子はどうやら母親から日常的に受けていた暴行の記憶を彼に転移したようだった。そのものの記憶しかない少年は、記憶の中の男の子を自分だと思っていたので、まず、それは違うと解らせる為に名を付けたのだ。そして彼女は「母親」ではないことも理解させた。恐怖を与える対象ではない、と。
「ねえ博士。今日はどんな話を聞かせてくれるの?」
 彼女は毎日毎日「面白くないかもしれないけれど」と言って、自分の知っていることをどんどんリュウに話して聞かせていた。世界の様々なことを知っている博士の話は、リュウを退屈させることなど一度もなく、彼はそんな彼女を誇らしいと思っていた。


 その日の午後、世界が朱に支配されるとき


 まだ感情のコントロールができないリュウは、様々なところで無駄にエネルギーを使ってしまうので、そのツケが回って、いつもこれぐらいに睡眠についていた。博士は自身の研究に一段落がつき、ゴマ助手の様子でも見に行こうと、転移室の方へ足を運んでいた。
「ゴマ助手。何か変わったことはあった?」
 コーヒーの入ったマグカップ片手に彼女は尋ねた。あの時と同じように彼はガラス越しに中を見ている。そして振り返り、あの時と同じように……笑った。中を見やると、四人の人間と、一つの人造人間が。
「何をしたの?」
 怪訝そうな顔で言った。
「先日の応用です。今度は三つの記憶と一つの心を一つの人造人間、L-302に転移してみたのです。四人が一人に早変わりですよ」
 誇らしげにゴマ助手は言った。
「それで、結果は?」
「もちろん成功です」
 あの、嫌な微笑みだ。それが博士の方に向けられている。彼女は渋い顔をして、今度は何が起こるのかと不安に満ちた表情で中の様子を見つめていた。やがて三人は転移専用のベッドから起きあがり、その足で立った。
「彼らは記憶を渡した者達です。全てではなく一部の、ですが」
 そう説明してから彼は中へ入っていった。そして三人を誘導し、転移室から出て、それぞれの病室へと連れて行った。残されたのは彼女と人造人間タイプL、そして心を転移したという青年。転移室内の彼らは眠り続けている。しかし、人造人間の指が少し動いたのを彼女は見た。
「リュウ」
 その瞬間、近くにある仮眠室にいるであろう少年の名を呼んだ。
「どうしたの?」
 すぐに彼は出てきた。起きていたのだろうか。そしてトコトコと彼女の近くまで歩み寄る。
「少し、これを持っていて」
 そう言って渡したのはマグカップ。もう中身は冷め始めていた。少年は不思議そうにそれを受け取り、自然な動作で転移室に目を移した。
「博士、あの人……」
 一人で四人の彼が完全に覚醒し、体を起こしている。それを見たリュウが不安そうに博士に話しかけた。
「ええそうよ。彼はあなたと同じ。いえ、もっと酷いかもしれない」
 真剣な面持ちで語る彼女。
 いつもリュウの前では笑顔を絶やさなかったため、彼は本当に大変なことが起こっていると実感できた。

 ゆ っ く り と 、 だ が 確 実 に そ の 両 腕 は 持 ち 上 が り 、 や が て 米 神 の 高 さ ま で に な る 。
 「っあ! あ、ぁぁぁぁああああああああ!!!!」
 突然叫びだした。
「博士!」
 リュウが声を荒げた時すでに、彼女は転移室の中へ駆け込んでいた。
「僕の嫌な予感、当たっちゃった……」
 少年の言葉は涙と共に零れ落ちた。その雫はやがてコーヒーに波紋をもたらした。

 ようやく叫びが終わったと思えば、今度は嘔吐が始まった。
「……」
 ステンレスの桶を彼の口元へやり、背中を無言でさすり続ける。リュウはその様子を泣きそうな顔でジッと見ている。余程力を入れているのか、マグカップを握る手の先は白くなってしまっていた。
「っ! けほっ、ぶはっ」
 元々胃の中には何も入っていなかったため、出てくるのは胃液ばかり。右腕は博士の左肩を、左腕は自身の胸元をそれぞれ強く掴み、押し寄せる吐き気の波に耐えようと必死である。
 数十分後、やっと落ち着きがでてきた。
「今日はもう休みましょう。リュウ、扉を開けて」
 先は青年に、後は少年にそれぞれ声をかける。ぐったりした彼の体を博士はベッドから降ろし、肩で支えて歩き出した。その先にはやはり、不安そうな表情でこちらを見、扉を開けたリュウがいる。
「ありがとう」
 安心させるように一度微笑み、更に仮眠室へと足を進める。仮眠室にはベッドが二つあるので、彼をそこへ寝かせても、リュウが寝床に困ることはないだろう。ゆったりと横たわらせ、布団をかけてやる。そして脇にあったテーブルに置かれていた注射器を取り上げる。
「大丈夫よ。これは睡眠薬だから」
 怯える青年と不思議がるリュウに微笑みながら言う。
「夢も見ずにぐっすり寝られるわよ」
 的確に血管を捉え、痛みを感じさせずに中身を押し出す。
「直に眠気が訪れるわ。その波に身を任せなさい」
 後処理をしながら話続け、それが終わると、今度はリュウに向き直った。
「あなたももうお休み」
 いつもと変わらない笑顔がそこにあった。それで初めて安心を得た彼は、彼女に言われたとおり、ベッドに潜り込む。音もなく明かりが消され、彼女が出て行くのが分かった。そして少年は、隣に誰かがいるという初めてのことにくすぐったさを感じながら眠りについた。


 あれから半月と二日が経った


 もう青年が嘔吐することもなくなった。顔色も着実に戻ってきている。
「それじゃあ、あなたの名前を決めましょうか」
 至極楽しそうに彼女は言った。まだ、青年に名はなかった。
「名前? 俺はもう三つも名前を持ってるんだぜ? 今更名前なんて……」
 自嘲気味に彼は笑う。
「いいえ。それらは本当の名前じゃないわ。だから、私が名前を付けるの。あなたの、初めての名前を」
 そう彼女に言われると、何も反論できないのか、それきり黙ってしまう。リュウはといえば、博士の隣で楽しそうに笑顔を浮かべているだけだ。
「まずは……。あなたに転移した人達の名前、教えてくれるかしら?」
「カート、紫煙、マイル」
 簡潔に答えた。記憶をたぐり寄せたのか、表情は険しい。
「んーと、そうね。……じゃあ、あなたは今日から『カエル』と名乗りなさい」
 少し思案した後、博士は彼に向かっていった。
「博士、それどこからきたの?」
 青年の代わりに少年が尋ねる。
「カートのか、紫煙のえ、そしてマイルのる、よ」
 どうやら頭文字とかではないらしい。
「どう? 気に入ってくれたかしら?」
「博士がくれるなら何でも」
 その日から彼は『カエル』になった。そしてこれが、彼が初めて笑った瞬間だった。
 カエルに転移された記憶は酷かった。いや、酷いでは済まされない。まさに地獄絵図。三人が三人とも同じようなものを彼に渡していった。

 例えば、カートという名の老人は昔々の戦場の記憶を。
 初めて人を手にかけた記憶。
 仲間が次々と殺されていく記憶。
 集団惨殺に加わり、数多の人を殺した記憶。
 それらの犠牲になった人達が残した悲痛な叫び声と恨みの籠もった視線の記憶。

 例えば紫煙という名の少女は両親が殺されたときの記憶。
 押し入れの中まで進入してくる血の臭いの記憶。
 父親の首が飛び、噴水のように吹き出す赤い液体を見ていた記憶。
 母親が何度何度も刺され、白い肌が穴だらけで真っ赤に染まる記憶。

 例えばマイルという名の青年の記憶。
 数人が怒り狂った鬼の形相で一人の男を追いつめていく記憶。
 その男を取り囲み殴り蹴り、なぶり殺していく記憶。
 判別不可能なほど潰れた顔でこちらを見る男の記憶。
 そして殺した側に自分が入っているという記憶。

 どれもこれもカエルには必要がないものばかり。そして彼らはこれからの人生さぞかし楽しく過ごすことであろう。カエルの犠牲の上に成り立った三人の幸せ。結果としてそれはよかったのか悪かったのか。

 「よし、じゃあお復習いよ」
 これから何が始まるというのだろうか。仮眠室に三人が輪になって座り込み、作戦会議をしているようだ。
「まず、私がゴマ助手を呼び出し、話をしている最中に睡眠薬を彼に打ち込む」
「その後俺が博士とゴマ助手を転移専用ベッドに寝かせる。そして準備」
「最後に僕が、スイッチオン」
 どうやらあまり楽しいことではなさそうだ。
「うん、完璧ね。二人は私がゴマ助手を眠らせるまで、ここに隠れておくのよ」
 一人頷いた後、念を押すように二人に言った。彼らもそれに答えるように力強く首を縦に振る。
「じゃあ、明日実行ね」
 そう言って彼女は立ち上がり、部屋を出て行った。もちろん「おやすみ」という言葉を残して。
「よしっ。明日がんばろうね、カエル!」
 意気込み十分のリュウ。
「失敗すんなよ?」
 それに対し、カエルは意地悪く返した。
 彼女たちの計画の真意は、ゴマ助手から『転移』そのものの記憶を博士に転移することにある。彼女が、もうこれ以上リュウやカエルのような人造人間を見たくないと言ったことから始まったのだ。そして成功を収めたその後は、元々の彼女の研究所である、あの森の中へ逃亡する。あそこは誰にも知られていない為、いくら彼女の助手を務めているゴマと言えど、突き止めることはできないだろう。

 真っ白な廊下を緊張した面持ちで歩く彼女。いくつもの視線を集めたまま、颯爽と目的の所へ歩いていく。
「いた……」
 小さく独り言を呟いて、歩く速度を速めた。
「ゴマ助手!」
 声を大きくすると、彼はすぐに気づき、彼女の方へ振り向いた。
「おや、博士が外にでるなど、珍しいですね。どうしたのですか?」
 窓の外にあった注意を、彼女へ移した。
「少し見て欲しいものがあるのよ」
 真剣な顔で言う彼女に、ゴマ助手は何か重要なことであろうと考え、素直について行くことにした。
 たわいもない会話を繰り返し、研究棟へ辿り着いた。そしてそのまま、博士の研究室へ。そこには、あらかじめ用意していた彼女の研究内容が表示されたモニターがあった。
「あそこの……」
 ゴマ助手の注意をモニターに向けさせ、説明する振りをしながらその懐から一本の注射器を取り出した。顔には出さないが、表面下では脂汗が絶えず吹き出している。素早くしなければと思うほど、すべてが鈍く感じる。そして左手が指す部分を彼が凝視した時、右手に持ったそれを頸動脈に一気に突き刺した。
「っ! 何を!」
 驚きの形相で博士を見やるゴマ助手。悲しそうに微笑んだ彼女は
「ごめんなさいね」
 と言った。その睡眠薬は即効性があるらしく、もう彼は床に崩れ落ち、眠っている。
「ごめんなさい」
 もう一度謝って、彼を持ち上げた。
「カエル! 手伝って」
 隣の部屋にいるであろう彼の名前を呼ぶ。カエルはすぐに駆けつけて彼女と反対側に立ち、その体を支えた。リュウの手によって開かれた転移室の扉をくぐり、中へ入る三人。彼女は自分で、ゴマ助手はカエルの手で、それぞれベッドに寝ころぶ。
「……」
 無言で準備をさくさく進めるカエル。博士はもう覚悟を決めたと言わんばかりに、目を閉じている。カチャカチャという音が止み、カエルが出て行く気配がした。
 ――始まるのね
 心の中で呟き、力を抜いた。
「リュウ、いいぞ」
 転移室から出てきたカエルの報告により、リュウは手元のキーボードの一つを押した。モニターの数字や文字が目まぐるしく変化する。  やがて、彼らにも分かる言葉が表示された。
「転移成功」
 点滅するその文字と、隣に立つ同じ人造人間を交互に何度も見てそれが事実であることを認識した。
「博士!」
 出てくる彼女を待ちきれず、自ら迎えに駆け寄る少年。その様子を穏やかな表情で見つめる青年。
「ありがとう、二人とも」
 出てきた彼女はそう言って笑った。
「さ、早いとこ逃げるわよ」
 未だ眠り続け、まだしばらくそのままであろうゴマ助手を放って、彼らは病院を去る。

 これからの幸せな日々をそれぞれの頭の中に描きながら。